aduのブログ

aduの生きること

ムーンとの記憶

はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」

 

 

こどもの頃に

猫といっしょに暮らしたいなとおもってて

 

 

 

 

なんとなくだけど

わたしの猫はきっと

あちらからわたしの所にやって来るんだろうなって

 

 

それとなく

ファンタジーな物語を描いて空想を楽しんでた。

 

 

そしたら

本当に

あちらからわたしの所にやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

ある日

玄関から

猫の鳴き声が聞こえてきた。

 

かなり必至に呼んでいた。

 

「 スミミャセーン 」「 ミャー 」「 たすけてくださーい 」みたいな。

 

 

玄関を開けて

彼女をひとめ見た瞬間

かなりの老猫なのと

衰弱と飢えの限界なのがわかった。

 

 

ズタボロな姿で登場してきたので

彼女にズタと名前をつけた。

 

 

 

ズタは毎日のように

わたしの家に来るようになった。

 

 

冬を越え夏を越え

気づいたら姿を見ない日が

どんどん増えてくるようになり

 

やがてズタは現れなくなった。

 

 

ある日

 

ズタの子孫たちが庭に来て

三兄妹の子猫たちを庭に置いていった。

 

 

その中のひとりは

顔に自力では治らない傷を負っていた。

 

 

耳の近くに生々しい傷を負っていたので

彼女にミミと名前をつけた。

 

 

ミミは2件目の病院で

正解な治療をみつけ傷は完治した。

 

ミミはかなりケンカが弱かった。

すごくやさしい謙虚な性格だった。

 野良には向いてなさそうだった。

 

ミミは安全な家の中で

いっしょに暮らすことになった。

 

 

わたしは

はじめて猫と暮らすことになった。

 

 

ミミは誰にでもやさしかった。

 

ミミは誰にでも甘えることが出来た。

 

とっても自然に愛され大切にされていた。

 

 

 

 

 ミミはある日

5人のこどもの母親になった。

 

 

ムーンはいちばんはじめに生まれて来た。

 

f:id:adusanosekai:20210804164111j:plain

ムーン

 

いちばんはじめに生まれて

そして死ぬ運命だった。

 

 

ミミは生まれたてのムーンを本能で排除した。

 

わたしは

ミミの捨てたムーンを助けた。

 

ムーンは4回冷たくなって硬くなった。

その度に祈った。

 

 

どうしても

生きてもらう必要があった。

だから咄嗟に名前をつけた。

 

ムーンと名付けて

生きる生きる生きると本気で祈った。

 

 

こころの中で

視えないなにかと契約もした。

 

 

わたしがこの子を引き受けるので

この子に命をくださいと取引をした。

 

 

 ムーンは正式に命をもらった。

 

 

ミミは

最初のひとりは死産だと知っていた。

母乳がひとりぶん足りなくなった。

 

なので

わたしも育児に参加して

全員生きる選択をした。

 

 

わたしは家を引っ越すことになった。

 

母猫ミミと

ムーンの弟のチビはやさしいご夫婦の実家へ

ムーンの妹のノラはシャレたタリアンのお店へ

ムーンの弟のシロクマは信州の水の美味しい村へ

ムーンの弟のトラキチはやさしいお姉さんの部屋へ

 

ムーン以外の全員にあたらしい家族が現れた。

 

 

ムーンだけはわたしの世界に残り続けた。